~ 新聞広告から学ぶ表記のトレンド ~
No.002|B.コピーレビュー|B-001
目次|INDEX
└ 集英社
└ 小学館
└ 講談社
└ トヨタイムズ
└ パナソニック
└ キヤノン
令和初となる新年の新聞広告
2020年1月1日。新年の幕開けとなる元日の新聞紙上は、今年も多くの大手各社による全面広告でにぎわいました。
元日は、帰省や連休で新聞に触れる機会も増えるため、出稿各社にとって、自社の想いや未来を紙面で伝える絶好の機会。
新年ということもあり、個別の商品やキャンペーンといった宣伝、いわゆるセールスプロモーション(SP)的な訴求というよりも、自社の理念や宣言など、認知やブランディング的な広告が掲載される傾向にあるといえます。
そのため、普段のSP的なトーンとは一味違ったコピーライティングに出逢えるのが、元日の新聞広告です。
2020年の元日も、令和になって初めての年明けのためか、新たな時代へと向かう姿勢を感じさせる、良質な広告やコピーが並びました。
元日の新聞広告コピーをやさしく解説
小欄では、2020年元日に掲載された新聞の全面広告の中から、ビジネスや日常で書くときの気づきや参考となるコピーライティングをピックアップし、とくに「表記の傾向がうかがえるようなコピー」に着目して、やさしく解説してみます。
取り上げるテキストとしては、メインとなるキャッチコピーというよりは、その配下に続くリードコピーやボディコピーと呼ばれる一文を取り上げてみます。
これらの広告をお手本に、コピーライティングやコピーワークだけでなく、ビジネスや日常のさまざまな書くシーンで、参考にしていただければ幸甚です。
※解説は過去に関わった編集・出版・案件の傾向を参考とするもので、断定するものではありません。
※以下敬称略。
<集英社>
▽引用箇所(一行アキは省略)
~ 略 ~
それは、長く愛されるキャラクターや物語の数々。
その魅力をさらに届けていくために、
私たちはもう、「本」という形にこだわりません。
アニメや映画はもちろん、
舞台をはじめとするイベント体験を通じて、
「読む」以上の楽しみを、もっと。
コンテンツの可能性は、無限大。
二〇二〇年。集英社は、挑戦していきます。
※出典:20年1月1日(水)/読売新聞/朝刊5面(全面広告)
▼ひらがな表記 ※下線部
○さらに/いく/ため/(私)たち/こだわり/もちろん/いき(ます)
△更に/行く/為/(私)達/拘り/勿論/行き(ます)
☆解説
・コピーライティングでは代表的なひらがな表記。
▼強調記号 ※赤字部
○「本」「読む」
☆解説
・強調時は当該文言を「」でくくることが多い。
・シングルクォーテーション(‘’)やダブルクォーテーション(“”)は引用時などに使用。
・『』は、『アルバム名』「収録曲」など、主従時などに使用。
・<>≪≫【】[]類は件名や見出し時などに使用。
▼漢字表記 ※赤字部
○通じて
△つうじて
☆解説
・漢字表記にすることが多い。
・「(~を)とおして」のときはひらがな表記が多い。
▼漢数字表記 ※赤字部
○二〇二〇(年)
☆解説
・縦書きのためか(当該広告主の集英社もそうだからか)、紙媒体では全角となる漢数字表記が好まれることも多い。
<小学館>
▽引用箇所
とことん載った図鑑を作ってみたい。
その夢、「図鑑NEOメーカー」で
叶えてみませんか?
好きな表紙を作って投稿してください。
新しい図鑑のテーマを決める
参考とさせていただきます。
※出典:2020年1月1日(水)/読売新聞/朝刊6面(全面広告)
▼ひらがな表記 ※下線部
○ください/いただき(ます)
△下さい/頂き(ます)
☆解説
・コピーライティングでは代表的なひらがな表記。
▼漢字表記 ※赤字部
○作る
☆解説
・「創る、造る」表記もあるが、コピーライティングでは「作る」表記が多い。
・上記のように複数の表記があるため、「つくる」とひらがな表記にすることも多い。
▼サービス名 ※赤字部
○「図鑑NEOメーカー」
☆解説
・会社名、商品名、サービス名などは当該文言を「」でくくることが多い。
・シングルクォーテーション(‘’)やダブルクォーテーション(“”)は引用時などに使用。
・『』は、『アルバム名』「収録曲」など、主従時などに使用。
・<>≪≫【】[]類は件名や見出し時などに使用。
<講談社>
▽引用箇所(表示上改行はなりゆき)
あのころは良かったな……なんて大人はよく言いますよね。でも講談社は、その逆。
「これから」が楽しみで仕方ない。子どものころ、未来にを夢想したように。
さぁ一緒にワクワクしませんか。よりグローバルに、よりリアルに。出版の枠を超えたエンタメを、今年も続々と。
※出典:2020年1月1日(水)/読売新聞/朝刊9面(全面広告)
▼ひらがな表記 ※下線部
○ころ/ない/よう(に)
△頃/無い/様(に)
☆解説
・コピーライティングでは代表的なひらがな表記。
▼三点リーダー記号(…) ※赤字部
○「……」
☆解説
・三点リーダーは、(当該広告主の講談社もそうだが)とくに紙媒体では「……」のように二文字表記が好まれることも多い。
・ウェブでは「…」が下付きに文字化けすることもあり「・・・」とナカグロ(・)を使うこともある。
▼「子ども」表記 ※赤字部
○(子)ども
△(子)供
☆解説
・「~供(ども)」は、蔑視や不快にあたるとの理由で、ひらがな表記とされることも多い。
▼強調記号 ※赤字部
○「これから」
☆解説
・強調時は当該文言を「」でくくることが多い。
・シングルクォーテーション(‘’)やダブルクォーテーション(“”)は引用時などに使用。
・『』は、『アルバム名』「収録曲」など、主従時などに使用。
・<>≪≫【】[]類は件名や見出し時などに使用。
▼エンタメ ※赤字部
○エンタメ/エンタテインメント
△エンターテインメント/エンターテイメント/エンターテーメントなど
☆解説
・英語スペル(Entertainment)や発音に準じ、「エンタテインメント」と表記されることが多い。
・ただし、レコード会社や映画配給会社などの場合は正式社名に準ず。
<トヨタイムズ>
▽引用箇所(表示上改行はなりゆき)
~ 略 ~
ちょうど一年前のことだ。私がトヨタイムズ編集長に就任して取材を始めたとき、最初に聞いたのは「トヨタがクルマの会社からモビリティの会社になる」という話だった。
~ 中略 ~
まあ確かに、あらゆるものがつながっていく時代だしねえ。こうなりゃ街ごとつくってつなげちゃえ!って発想なのだろうか。
~ 中略 ~
社長が「仲間づくり」「この指とまれ」って言ってたのはそいういうことか…。
~ 以下略 ~
※出典:2020年1月1日(水)/読売新聞/朝刊10-11面(見開き両面広告)
▼ひらがな表記 ※下線部
○ちょうど/こと/とき/つながって/つくって/づくり
△丁度・調度/事/時/繋がって/作って/作り
☆解説
・コピーライティングでは代表的なひらがな表記。
▼強調記号 ※赤字部
○「トヨタがクルマの~」
☆解説
・強調時は当該文言を「」でくくることが多い。
・シングルクォーテーション(‘’)やダブルクォーテーション(“”)は引用時などに使用。
・『』は、『アルバム名』「収録曲」など、主従時などに使用。
・<>≪≫【】[]類は件名や見出し時などに使用。
▼感嘆符(!、アマダレ) ※赤字部
☆解説
・紙媒体では感嘆符(!)の直後は全角/半角スペース(アキ)の挿入が好まれることが多い。
・(トヨタは紙媒体ではないからか)上記では全/半角スペースが挿入されていないのが興味深い。
▼カギカッコ(「」)の連続時 ※赤字部
○「仲間づくり」「この指とまれ」
△「仲間づくり」、「この指とまれ」
☆解説
・カギカッコが続く場合は、カギカッコの間に読点(、)は打たないのが通例。
▼トーン(文体)
☆解説
・荒い印象の「だである」調でありながら、「まあ~だしねえ」「~しちゃえ」などの口語を散りばめ、全体的にフランクな印象になっている。
▼三点リーダー記号(…) ※赤字部
☆解説
・三点リーダーは、とくに紙媒体では「……」のように二文字表記が好まれることが多い。
・前出の講談社と異なり(トヨタは紙媒体ではないからか)「…」と一文字表記なのが興味深い。
・ウェブでは「…」が下付きに文字化けすることもあり「・・・」とナカグロ(・)を使うこともある。
<パナソニック>
▽引用箇所
おもしろい年になりそうだ。
僕は、ワクワクしている。
本番へ向けてトレーニングを
続ける選手たちに。
それを支える人たちに。
観る人みんなと感動を分かち合うことに。
そして、TOKYOの先にあるものに。
想像してみよう。
これから僕らが体験することを。
それはこの街や、この国だけでなく、
僕ら自身も変えていくだろう。
楽しもう。パナソニックといっしょに。
※出典:2020年1月1日(水)/読売新聞/朝刊12面(全面広告)
▼ひらがな表記 ※下線部
△おもしろい/いっしょ
☆解説
・「面白い」「一緒」は漢字表記が通例だが、ソフトな印象づけのためか、冒頭と文末コピーの統一感のためか、ひらがな表記を採用したのかも。
▼ひらがな表記 ※下線部
○(選手、人)たち/こと/ある/もの/(僕)ら/いく
△(選手、人)達/事/或る/物/(僕)等/行く
☆解説
・コピーライティングでは代表的なひらがな表記。
▼観る ※赤字部
☆解説
・スポーツ、映画、演劇などは、「見る」と区分けして、「観戦」「観賞」に由来する「観る」と表記することが多い。
<キヤノン>
▽引用箇所(表示上改行はなりゆき)
~ 中略 ~
大歓声に包まれる中、新しい瞬間は次々に生まれるだろう。心を揺さぶるその一瞬を、一枚の記録として残してきたのは、いつの時代も「写真」だった。アスリートは何を見せてくれるのか。フォトグラファーはどんな瞬間を狙うのか。私たちキヤノンは、その意思に応え続けたい。新たなる一枚を、世界に語り継がれる記録にするために。
※出典:2020年1月1日(水)/読売新聞/朝刊40面(全面広告)
▼漢字表記 ※赤字部
△(~)中/揺さぶる/何/狙う/応え
○(~)なか/ゆさぶる/なに/ねらう/こたえ
☆解説
・これらはコピーライティングではひらがな表記のことも多いが、力強い印象づけのためか、漢字表記にしたのかも。
▼ひらがな表記 ※下線部
○(私)たち/ため
△(私)達/為
☆解説
・コピーライティングでは代表的なひらがな表記。
▼強調記号 ※赤字部
○「写真」
☆解説
・強調時は、当該文言を「」でくくることが多い。
・シングルクォーテーション(‘’)ダブルクォーテーション(“”)は引用時などに使用。
・『』は、『アルバム名』「収録曲」など、主従時などに使用。
・<>≪≫【】[]類は、件名や見出し時などに使用。
各社広告における表記のトレンド
ひらがな表記については、「ため」「(私)たち」「こと」あたりは、どの広告もひらがな表記でした。一方で、「つくる」では、「作る」(小学館)と「つくる」(トヨタイムズ)のように、漢字とひらがなにわかれる表記もありました。
記号については、強調記号、サービス名では、どの広告もカギカッコ(「」)を採用していました。一方で、三点リーダー記号(…)では、「……」(講談社)と「…」(トヨタイムズ)のように、二文字と一文字にわかれる表記もありました。
些細なことですが、出稿各社によってわずかに表記がわかれるのは、興味深いポイントです。広告に触れるとどうしてもこのような細かい表記などが気になってしまうのは、コピーライターという職業がらなのかもしれません。
良質コピーがあふれる新聞広告
上記の広告以外にも、多くの良質な全面広告が新聞誌面を飾っていましたが、小欄ではとりわけ表記の点で特徴的な広告をピックアップしてみました。
新聞広告には、良質な広告やコピーライティングがあふれています。元日だけでなく、普段の日も新聞広告に少し目を向けて、表記の傾向や参考となる良質な表現を、見つけてみてください。
<当ブログのリンク設置や引用について>
・当ブログ「コピーライティングのトリセツ」は基本的にリンクフリーです。
・リンクを設置される場合の許可や確認のお問い合わせは基本的に不要です。
・ただし、リンクを設置される場合、または引用など出典先とされる場合は、
「コピーライティングのトリセツ/コピーライター|中村 和夫」の旨明記ください。
(了)